日常生活で行う作業活動を通して、障害者の心身の回復と自立生活への支援を行うのが『作業療法士』の仕事。
医師や他の医療スタッフと協力し、障害者の望む生活に向けた支援を行います。
編集協力/日本作業療法士協会 http://www.jaot.or.jp/
作業療法士はOT(Occupational Therapist)とも呼ばれています。「『作業療法』とは、身体又は精神に障害のある者に対し、主としてその応用的動作能力又は社会的適応能力の回復を図るため、手芸、工作その他の作業を行なわせることをいう。」と法により定められています。
けがや病気で失われた機能を治療や訓練により回復させ、対象者の一日も早い地域生活を促すのがリハビリテーションです。作業療法では基本的動作能力、応用的動作能力、社会的動作能力の3つの能力を維持、改善することで対象者が生活を獲得できることを目標にしています。そのための手段として、障害者の精神的・身体的状況および社会的状況を考慮し、最も適した作業活動が選ばれます。
リハビリテーションの仕事は、医師や看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士や視能訓練士などがチームを組んで行う協動作業です。医療技術の高度化、医療スタッフの分業化が定着しつつある今、リハビリテーションの専門家として、作業療法士の果たすべき役割はますます大きくなっています。
障害者のいち早い社会復帰をめざし、
医師や医療スタッフと協力して検査・訓練を行う
作業療法士の仕事は、対象者に関する様々な情報を入手することから始まります。医師や看護師などから直接聞いたり、カルテ等から読み取ったりして基本的な情報を得ます。そのうえで対象者に直接会い、ご自身の現状や、これからの希望や要望についてゆっくり聴くとともに、その際の表情・声音・話し方・動作・姿勢・等々を観察、評価することにより、その時点での状態を把握し、必要に応じて身体機能や精神機能に関する検査を行います。こうして得られた情報を基に、関係する医療スタッフと共に再度協議を行い、対象者にとって必要な作業療法の目標とそれを達成するための計画を作成します。
対象者は、身体、精神、発達、高齢期の障害や環境への不適応により日々の作業に困難が生じている、またはそれが予測されている人などで症状が異なり、年齢も幼児から高齢者まで様々です。また、たとえ同じ障害をもち、同じ年齢であっても、一人ひとりの置かれている人的・物理的環境は異なり、障害と折り合いをつけながら実現したいと思っている生活や人生も十人十色、千差万別です。そのため作業療法士は、対象者一人ひとりに個別の目標を設定し、それに即した計画を作成し、目標の実現に向けて様々な『作業』を提供します。作業療法士は医療従事者ですから、これらの支援は当然のことながら医学的な知見と評価に基づいて行うことになります。
例えばある人には、身体や精神の障害を軽減し、機能回復を目指すための「治療手段」として、その方に合った『作業』が提供されます。これは、それらの行為を構成する個々の動作の中に、医学的な根拠に基づいた治療効果(例えば、作業に集中することによって精神的な安定が得られる、「握る」「つかむ」といった運動機能の獲得につながるなど)が織り込まれていると同時に、単なる機械的な反復運動などではなく、目に見える目標を設定することによって対象者を動機づけ、行為を促進させる効果が期待されているからです。
またある人には、身体や精神の障害と折り合いをつけながらその人が「獲得すべき動作」として、移動や食事、排泄、入浴などの『作業』が訓練されます。例えば食事をすることは万人に必要な日常生活行為ですが、対象者の年齢、障害の部位や重症度、認知機能の程度などが医学的に評価され、どんな場所で、どんな物を食べるか等によっても訓練の仕方が大きく異なります。その人に合った姿勢、手や口など身体的な動作を訓練すると同時に、必要であれば様々な道具(福祉用具や自助具)を駆使して、その人なりの食べる行為の獲得を目指します。
さらにある人には、その人の「生きがいや生活を豊かにするための行為」として、例えば学校や職場に復帰するために必要な技能、家族や地域社会の中でやりがいのある役割、人生に彩りをそえる趣味などの『作業』の獲得を支援します。対象者の作業耐久性を評価し維持・向上させながら、障害があってもそれとうまく折り合いをつけ、地域の中で生き生きと、その人らしい生活を実現していくための方法を提案し、支援していくのです。
ここに挙げたのは一例にすぎませんが、作業療法士はそのように生活や人生を様々な『作業』の集積と捉え、その『作業』を手段に用いたり目標に掲げたりしながら、身体や精神に障害がある人の生活を支援していくのが仕事です。
このような作業療法士の実践を背景に、厚生労働省は、作業療法士が行う「作業療法の範囲」として次のような業務を列挙し、「作業療法士を積極的に活用することが望まれる」と述べています(平成22年4月30日付け厚生労働省医政局長通知)。
作業療法士は、以下のような場で活躍します。
ここ数年、作業療法士の数は飛躍的に増加していますが、絶対数はまだまだ不足しており、優秀な人材が求められています。さらに経験者の研究・開発分野への進出も期待されており、活躍の場はますます広がっていくことでしょう。
作業療法士は、「理学療法士及び作業療法士法」に基づいて定められた国家資格です。このため作業療法士になるには、まず厚生労働大臣による国家試験に合格しなければなりません。その後、作業療法士名簿に登録されることによって、免許が交付されます。
作業療法士の国家試験の受験資格は、以下のように定められています。
❶大学に入学することができる者で、文部科学大臣が指定した学校、または厚生労働大臣が指定した養成施設において3年以上、作業療法士として必要な知識・技能を修得した者。
❶の養成施設には大学、短期大学(3年)、専門学校などの養成施設(3〜4年、夜間4年)があります。養成施設には理学療法士・作業療法士両方のコースを持つところが少なくありません。どちらの仕事が自分に合っているか、2つの資格・仕事の内容の違いをよくみきわめたうえでコースを決定したいものです。
日本で作業療法士の国家試験が初めて実施されたのは1966年。それ以降、毎年1回実施されています。
試験は筆記試験で、北海道、宮城県、東京都、愛知県、大阪府、香川県、福岡県、沖縄県の8カ所の試験地で実施されます。
筆記試験には一般問題と実地問題があり、一般問題が①解剖学、②生理学、③運動学、④病理学概論、⑤臨床心理学、⑥リハビリテーション医学(リハビリテーション概論を含む)、⑦臨床医学大要(人間発達学を含む)、⑧作業療法の8科目、実地問題が①運動学、②臨床心理学、③リハビリテーション医学、④臨床医学大要(人間発達学を含む)、⑤作業療法の計5科目について行われます。なお視覚、聴覚、音声、言語機能に障害を有する者は、事前に申し出れば受験の際、障害の状態に応じて必要な配慮がなされる場合もあります。
平成30年度の国家試験の合格率は80.0%。低い数値ではありませんが、試験の難易度は年々高まっています。活躍の場が広がるにつれ、それだけ高い知識と技術を持った人材が求められているといえるでしょう。
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